2022年6月より、SMBCクラウドサイン社が提供する電子契約サービス「SMBCクラウドサイン」を本格導入している神戸市。これは政令指定都市では初となる先進的な取り組みです。同市は例年8,000超の契約を行っており、それらがすべて電子契約に置き換われば4,000時間相当の労働時間が削減できる試算です。さらに契約時に収入印紙が不要になるため、印紙税(2021年度は総額8,500万円)(*1)がゼロになるほか、書類の郵送等にかかる費用を削減できるメリットもあります。
2万人を超える職員を抱える巨大自治体は、どのような経緯でSMBCクラウドサインを導入して、どのように変わったのか。神戸市の企画調整局 デジタル戦略部に所属する山川歩氏と元村優介氏、行財政局 業務改革課に所属する大村恵氏にお話を伺いました。
(*1)電子契約書は印紙税法上、印紙税の対象外となることから収入印紙が不要となります。自治体は紙契約であっても収入印紙が不要であるため、収入印紙のコスト削減のメリットは契約相手方に限られます。
山川氏
それまでは全ての契約を紙ベースで行っていたので、事務的な手続きが非常に煩雑でした。PCで作成したデータを紙で出力して、公印を管理している部署に出向いて押印してもらい、郵送するという手順があり、手間も時間も要していました。その部分の効率化を図るべく電子契約を導入しました。
神戸市企画調整局 デジタル戦略部 ICT業務改革担当 課長 山川 歩 氏
山川氏
電子契約になれば便利だなとは皆が思っていましたが、具体的なイメージもなく、紙での契約が当たり前になっていたので特に職員からの要望はありませんでした。契機となったのは2021年の地方自治法施行規則の改正です。これにより地方自治体も電子契約を導入しやすくなったので、市としてぜひやってみようという気運が高まったのが大きいですね。
山川氏
これまで、神戸市と契約する事業者様には、契約書に契約金額に応じた収入印紙を貼ってもらう必要がありました。中には億を超える契約もあり、比例して収入印紙の額も大きくなるのでこの負担がなくなることは、事業者様の金銭的な負担軽減につながります。契約いただく企業の半数は地元企業ですので、地域にもそのメリットを還元できるでしょう。
山川氏
まずは使い勝手です。導入前に他社製品も含めて実際に使ってみたところ、SMBCクラウドサインが最も使いやすいという声が多くの職員から上がってきました。もう一つはセキュリティです。我々は業務に「LGWAN(Local Government Wide Area Network)」という地方公共団体特有のネットワークを活用していますが、この環境に対応していたことも導入の決め手です。
神戸市行財政局 業務改革課 デジタル化専門官 大村 恵氏
大村氏
まず、紙がなくなったことで保管スペースが減りました。そしてなによりPC上ですべて完結するので、作業効率が抜群に向上しました。紙の契約書には公印を押す必要がありますが、市役所の中は広く、別建物の部署もあるため、公印を管理している窓口に行くのにも時間がかかりますし、書類の不備があれば、一度持ち帰り修正して再度出向く必要が出てきて膨大な時間が取られます。それらの手間が一切なくなったことに、非常にメリットを感じています。
山川氏
一つ問題としてあったのは、電子契約を導入することで現状の仕事に加えて、新しく覚える事柄が発生することです。特に繁忙期では自分の仕事で手一杯になりがちなので、いかに職員の手を煩わせずに導入するかを考えました。神戸市役所という規模の大きな組織で変革を行う際には、いろいろな部署に対して調整をかける必要が出てきます。場合によっては規則の変更も求められるので、関係部署と協議を重ね、導入することのリスクも十分に検討した上で踏み切りました。
ただ、多くの職員は新しいことへのチャレンジを前向きに捉えてくれていますし、DXを推進する気運はかなり高まってきているので、そこは助かりました。
大村氏
SMBCクラウドサインはユーザーインターフェースがすごくシンプルなので実証実験もスムーズに進みましたが、各部署から「本当にこれで契約できるのか?」「実際の運用はどうするのか?」といった疑問が出てきました。それらの疑問をプロジェクトチームで一つひとつ解消していきました。
元村氏
新しいシステムを入れることで、従来の業務の進め方を変更する必要が出てくるので、新しいルールの整備も並行して進めました。これまでは公印を押した書類を契約書と呼んでいましたが、電子契約では電子署名でも契約書として認めることになるので、細かい規程も変更する必要があります。個人情報を取り扱うのでセキュリティの審査も含め、実証実験の期間でルールづくりも行っていきました。
神戸市企画調整局 デジタル戦略部 ICT業務改革担当 元村 優介氏
大村氏
契約件数の多い一部の部署を対象に行いました。現在もすべての部署に行き渡っているわけではありませんが、徐々に導入する部署は増えてきています。目標としては2025年までに80%の導入を目指しています。今年度はまだ紙から電子契約への移行期間ですが、来年度から電子契約を主軸にしていく方針です。今後、SMBCクラウドサインの利用率がどこまで増えるかとても楽しみです。
山川氏
阪神大震災以降は絶え間なく行財政改革を行い、財政構造の見直しや職員数の削減を継続しています。自治体として新しい仕事が増えていく中で、従来の仕事の進め方では立ち行かなくなる危機感は常にあるので、業務の効率化については常に試行錯誤を重ねてきました。効率化の徹底がなければ職員は幸せにならないし、なにより市民の方も幸せにならないでしょう。幸い、市長(久元喜造 市長)もこういった取り組みについては積極的に後押しをしてくれるので、職員が一丸となって推進しているところです。
山川氏
そこは非常に大きいですね。もともとは、民間企業が電子契約を導入しているのになぜ自治体ができないのか、といった疑問から本格的な導入に向けての動きが始まりました。地方自治法施行規則の改正を契機に市長が我々の背中を押してくれたので、トップの意向、リーダーシップの存在は大きいと思います。
山川氏
ありがたいことに、非常に多くのお問い合わせをいただいています。これはおそらく自治体の間ではよくある話だと思うのですが、どこかが先行的に新しい取り組みをすると、一時的に問合せが殺到します。導入方法や運用方法を尋ねるものから、資料をくださいといったものまで、細かな反応も含めると反響はとても大きかったですね。
山川氏
はい、ある程度は予想していました。我々も他の自治体を参考にすることはよくありますので、こちらとしても情報は共有していくつもりです。もちろん、我々としても欲しい情報はありますので、各自治体間で上手く連携を取れれば、さらに全員でより良い方向に進めると考えています。
山川氏
これからも絶え間なく行財政改革を推進していきます。今現在は「行財政改革2025」と題したプランを立てて、順次取り組みを進めていますが、体制のスリム化を図るべく職員数が減る一方で、市民の方に対して多様なサービスを提供していかなければなりません。それは、従来と同じ仕事をしていたら絶対に立ち行かなくなるということです。今までの仕事をデジタルに置き換えるのはもちろん、もともとの制度や仕組みから、仕事の進め方、ワークフローを含めて抜本的に変えていかないと、職員も幸せにならないし、市民の方に対して良質なサービスを提供できないでしょう。
現状は、なんらかの手続きをするためには基本的に市役所まで出向く必要がありますが、今後は在宅でも、遠隔でも手続きができるような体制を整えていく予定です。我々も他の自治体の事例を参考にしつつ改革を進めていきます。単なるデジタル化ではなくて、抜本的に仕事のやり方を変えようということで、いろいろなチャレンジを続けていますし、これからも続けていくつもりです。
新型コロナウイルスの影響もあり、時代の変化に対する危機感は多くの職員が共有しています。現在進行形で社会の状況がどんどん変わっていく中、より良いサービスが提供できるよう、これからも先進的な取り組みを続けていきます。
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